被告車両は、普通二輪教習における屈折路の教習中、屈折路を曲がりきれず、パイロンを破壊しながら、縁石を乗り越え、車道に侵入した。当時、被告は屈折路の走行に不安を覚えており、バイクを倒してしまうなら、思い切り良く前につっこんだほうが良い(笑)と考えており、このような事態になった。
この時、指導にあたっていた教官(50代)は、「私が教習していた中で、こういうのは2回見たことがあります。」と証言しており、被告の行動は、前例の少ない行為であることが認められる。
二輪教習において、課題の練習で二輪車を倒してしまうことは、日常的に起こる事態である。二輪車の性質上、曲がるという行為は、二輪車を傾ける必要があり、とくに初心者は、その行為に不安を覚えるため、慌てて減速した結果、失速し、二輪車を倒してしまうのである。
被告はその後、排気量が400ccの二輪車教習を一時中断し、125ccの小型二輪車での教習を再開、2時間の追加教習を行った。その後、パイロンを破壊するというような危険走行は無く、すべての技能教習を履行した点などから、情状酌量の余地がある。
以下、被告の証言である。
教習の中で一番苦手だったのが屈折路だった。クランクって普通は言うけど、最初僕は、前タイヤのところばかり見ていて、その先を見ていなかった。教官からそのたびに、前見て!、先の道路の様子を見て!と言われたが、怖いものは怖いのである。怖がって、ゆっくりやろうとすると、今度は車体が不安定になる。車体が失速、自分斜体。なんちゃって。バイクなんて少し傾いたら、もう支えきれない。なんてったって200キロあるというから、バイク乗ってる奴ってのは頭イッてるんだね。僕が親だったら、絶対反対するよ。バイク抱えながら、階段登れるようになってから乗りなさいっていう。
普通車でクランク入っても、超ゆっくりやっても、転ぶこと無いもんね。
しかし、二輪は慎重にやろうとすればするほど難しくなる、これを実際に体で体感した時は、なんかカルチャーショックみたいなのを感じた。じゃぁ、危なげなくこなすにはどうしたらいいか、それはもうやっぱ、勢いなんだね。
クランクが出来ないのも辛いが、一番つらかったのは、その後125ccで教習し、教習時間が2時間増えたことである。実は、平均台も同じ理由で足元ばかり見ていて、すぐ落ちてしまっていた。その時の自分の課題は、足元見るな、前見ろっていうのが最大の課題だった。125cc乗ると、すごい軽くてなんて乗りやすいバイクなんだろうと、感動した。教習場走るだけなら、125ccで十分だ。
さすがにへこんだ。バイク怖い!こんなの乗る人の気が知れない!バイク乗りたくない!自分はバイク乗りに向いてない!乗ったら事故る!なんて思ってたんだけど、人って馬鹿なもんで、1段階のみきわめを終了し、ある程度の課題は難なくこなせるようになってくると、だんだん楽しくなってくるのだ。
1段階にくらべ、2段階は楽である。法規走行に急制動が加わったぐらいだ。法規走行は車を運転している人だったら、すぐわかるだろう。一時停止不停止、信号無視とかもうありえんだろ。
急制動についても、バイクの性能もいいのもあるだろうが、急制動するときの道路が若干上り坂になっていて、ちょっとチートじゃないかと思ったが、公安が来ると困るのでそっとしとこう。
* * *
二段階は、教習の延長をしなくて済んだ。技能教習の延長は、懐にダメージがくるので、なるべくなら避けたい。二輪は、かなり技量に左右される課題が多いため、教習の時間が2週間とか空いてしまうと、けっこう痛いところがある。「後ろの三角窓に、最初のポールが見えたら、ハンドルを全部切ってバックして―」みたいな、教習所ルールは存在しないのだ。全ては、自分のテクニックに問われる。平日、教習場に行けない自分は、卒業検定もあまり先延ばししたくないと思ったので、百歩譲ってみきわめ終了後、次週の日曜日に卒検を予約した。
当日は、十数名が普通二輪の卒検に参加した。大学生くらいの青年から、定年後の趣味にするのだろうか、年配の男性、女性もいらっしゃった。二台の教習車にわかれたが、運悪く僕は一番最後に乗ることとなった。
卒検の一週間前、僕は卒検中に一時停止を忘れ、教官が乗ってた車からクラクションを鳴らされ、検定中止になっていた人を見たことがある。あれを見たら、誰もが卒検におそれおののく。何が起きるかわからない。いや、そもそも、平均台とかスラローム、急制動とか、課題の最中に足ついたり、急制動で停止線超えたりしたら検定中止とか難易度高過ぎるだろ。まぁ、平均台で足ついたらダメってのは、まぁわかる。だけど、ひょっとしたら強い強風にあおられるかもしれないし、今までは大丈夫だったんだけど、なんか不思議な力で落ちてしまうこともあるかもしれない。そういうことがあっても、落ちたらそこで終わりなのだ。
自分の番がやってきた。すごい暑い日だった。34度位あったきがする。もう5人の人が検定を行っていたため、教習車のタンクは今までで一番熱かった。上からは太陽の熱、下からはエンジンの排熱、股に高温のタンク。もうそれだけで、参ってしまいそうだった。バイクは風を切るから、走りだすと涼しい?何言ってんだ。教習場で、しかも検定中、20キロくらいしか出さねーよ。全然涼しくねーよ。
検定終盤、気が抜けたのか、見通しの悪い交差点で頭出しながらゆっくり、バイクを進めてたら、エンストした。だけど、この時、エンストは何回かOKっていうのをどっかのサイトで見ていたので、焦らなかったのは良かった。
終わった時は、普通車の検定の時とは違う、教習生同士の団結みたいのがあったのは不思議だった。検定を終えて、自分の良かったと思うところ、失敗したと思ったところいいあったり、どんなバイク乗るんです?とか、へーこういうのがバイカー同士の繋がりなのかーと感心してた。
普通車と違い、趣味性の濃い乗り物である。物好きぐらいしかバイクの免許を取ろうとする人もなかなかいないだろう。そういうった理由から、まぁ話せばわかるいろいろな話ってのが湧いてくるのかもしれない
普通車の検定終わって、3号車クラッチのミートが薄かったねとか、アライメントおかしかったとか、免許とったらどんな車買うんです?んーNSXかなとかそんな会話が始まったら逆に怖い。
ちなみに、自分はどんなバイク買うか決まってない。欲しいバイクはあるんだけど、金がない。あるっちゃるけど、最近友人から車を譲るって話があって、悩んでいる。車買ってしまったら、二輪なんて乗らなくなりそうだよなぁ…。
バイクってどんな乗り物なのだろう、そんな気持ちから始まった二輪免許取得への道は、3ヶ月ほどで完結した。今まで乗ったことのない乗り物に、乗り、しかもそれを操縦することが出来たことは、たとえ教習所の中だが、とても有意義な時間で、総括すると楽しかった。こんどは、教習所の外でそれを体験する日が来ればいいが…。